
バセドウ病は甲状腺機能亢進症の一種で、甲状腺ホルモンの過剰分泌によって引き起こされます。この病気が進行することにより、さまざまな症状が現れ、特に「手足のしびれ」が気になる方も多いかもしれません。手足のしびれは、単なる疲れや血行不良からくるものではなく、カリウム異常や神経過敏が原因となることがあります。この記事では、バセドウ病による手足のしびれについて、その原因と対処法を詳しく解説します。
バセドウ病と手足のしびれの関係
バセドウ病では、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることにより、体内の代謝が活性化し、さまざまな身体的な影響を及ぼします。これにより、筋力低下や神経の過敏症状が引き起こされることがあり、手足のしびれがその一つとして現れることがあります。
①. カリウム異常
バセドウ病が進行すると、体内でのカリウムの移動に異常が生じることがあります。過剰な甲状腺ホルモンは、カリウムを血中から細胞内に移動させ、血中のカリウム濃度を低下させることがあります。カリウムは神経や筋肉の正常な働きに必要不可欠な要素ですが、その濃度が低くなると、神経や筋肉が正常に機能しなくなり、手足のしびれや筋力低下を引き起こすことがあります。
②. 神経過敏
バセドウ病では、甲状腺ホルモンが神経系にも影響を与え、神経過敏が生じることがあります。この状態では、少しの刺激でも過剰に反応し、手足にしびれやピリピリとした感覚を感じることがあります。神経過敏は、甲状腺ホルモンの過剰が神経伝達のバランスを崩すことによって引き起こされます。
③. 筋肉の異常
バセドウ病では、筋肉が異常に消耗されやすく、筋肉の柔軟性や力が低下します。この筋力低下により、手足のしびれや脱力感が感じられることもあります。筋肉がうまく働かないことが神経に影響を与え、しびれの原因となることがあります。
④. 血流の変化
バセドウ病により体内の代謝が異常に活発になることで、血流にも変化が生じます。血行不良が手足のしびれを引き起こすことがあります。
手足のしびれを引き起こすその他の要因
アイソトープ治療後及び甲状腺切除後の手足のしびれ
バセドウ病の治療として、アイソトープ治療(放射線治療)や甲状腺切除が行われることがあります。これらの治療後の甲状腺ホルモンの急激な変動がカリウムの移動に影響を与え、手足のしびれが引き起こされることがあります。甲状腺ホルモンの不足や過剰は、体内の電解質バランスが崩れ、カリウムの大きな移動を引き起こし、その結果として神経症状が現れることがあります。手足のしびれが続く場合は、自己判断で症状を放置せず、まずは担当医に相談しましょう。
バセドウ病による手足のしびれの対処法
バセドウ病による手足のしびれに対処するためには、まずは病気そのものの治療が必要です。その上で、ご自身でできる対策をご紹介します。
対策1. 抗甲状腺薬の使用
抗甲状腺薬の服薬治療を受ける場合、これにより、ホルモンバランスが安定し、しびれや筋力低下が改善する可能性があります。
対策2. ホルモン療法の調整
甲状腺切除後やアイソトープ治療後は、甲状腺ホルモンのバランスが崩れることがあるため、定期的に血液検査を行い、ホルモンの補充量を調整することが必要です。ホルモンバランスが安定することでしびれや筋力低下が改善する可能性があります。
対策3. カリウムを意識
手足のしびれがカリウム不足によるものであれば、カリウムが不足しないようにすることが重要です。野菜にはカリウムを豊富に含まれるため、野菜たっぷりの食事を意識することが推奨されます。また、カリウムが不足している場合は、カリウム補充薬を使うこともありますが、この場合には過剰摂取に十分な注意が必要であるため、必ず医師の指導の下で行ってください。
対策4. 食事と生活習慣の見直し
バセドウ病の治療中は、過剰な刺激を避け、体調を整えるためのバランスの良い食事と十分な水分補給や休息が大切です。炭水化物の過不足が体内でのカリウム移動によるしびれの原因となることもあるため、低GIの主食を心がけ、過食や極端な糖質制限を避けましょう。また、ストレスや過労が症状を悪化させることがあるため、規則正しい生活を心掛けることが症状改善に寄与します。
まとめ
バセドウ病による手足のしびれは、カリウム異常や神経過敏が主な原因となることがあります。甲状腺ホルモンの過剰分泌が体内の電解質バランスを崩し、神経系に影響を与えることでしびれが発生します。この症状を改善するためには、まずは治療によって甲状腺ホルモンバランスを安定させることが重要です。なお、しびれにはカリウムの影響に限らず、その他のミネラルの影響をはじめ、さまざまな原因があるため、自己判断は危険です。もし手足のしびれが気になる場合は、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
参考文献
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