
甲状腺は、私たちの体内でエネルギー代謝や体温調節、神経の働き、さらには生殖機能にも関与する重要な臓器です。バセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患では、甲状腺ホルモンの分泌が過剰または不足することで、さまざまな不調が生じます。
これらの変化は、単に体の不調にとどまらず、パートナーとの関係性や性生活にも影響を与えることがあります。バセドウ病や橋本病の影響を理解し、パートナーとの関係を見直すヒントを解説します。
性機能障害は甲状腺疾患の一症状
近年の研究では、甲状腺ホルモン受容体が男女ともに性腺や生殖器に存在することが明らかになっており、ホルモンバランスの乱れが性機能障害を引き起こすことが報告されています。
たとえば、
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では、情緒不安定や動悸、疲労感により性への関心が薄れたり、
甲状腺機能低下症(橋本病)では、体の冷えや抑うつ気分とともに性機能に変化が出ることがあります。
こうした身体的な変化は、パートナーとの距離感や関係性に影響を及ぼすこともあり、時にはすれ違いや誤解を生む原因となってしまうこともあります。
欧米の臨床では、こういった変化を典型的な症状の一つとして取り上げられることもあります。
感情の変化にも注意が必要
甲状腺ホルモンは脳内の神経伝達物質の働きにも関与しており、そのバランスが崩れると、イライラしやすくなったり、気分が落ち込みやすくなることがあります。これは病気による自然な反応であり、決して本人の「気の持ちよう」や「我慢が足りない」といった問題ではありません。
特に発症時や治療開始直後は、ホルモンバランスが大きく揺れ動く時期です。ちょうど人生の転機(結婚や出産、キャリア形成)と重なることも多く、こうした心身の不調に戸惑う方は少なくありません。
正しい理解とサポートが回復を助ける
幸いなことに、甲状腺ホルモンの値が安定してくることで、性機能障害や感情の不安定さが改善されるケースは多く報告されています。ですので、焦らず治療を継続することが何より大切です。
また、こうした変化を一人で抱え込まず、信頼できる医師やカウンセラーに相談することも回復への大きな一歩となります。パートナーや家族にも、甲状腺疾患が心身に与える影響を理解してもらうことで、不要な誤解やすれ違いを防ぐことができます。
食生活やストレス管理も大切に
甲状腺疾患の治療には、薬物療法だけでなく、栄養バランスの取れた食事やストレスケアも大きな役割を果たします。偏食を避け、十分なタンパク質の摂取やビタミンやミネラルが豊富な食生活に加え、リラックスすることは、ホルモンの働きを支えるためにも有効です。
「なんとなく気持ちが沈む」「パートナーとの関係がうまくいかない」と感じたときこそ、体と心のサインに耳を傾けてみてください。それは、病気による自然な変化であり、適切な対応によって回復できる問題です。
まとめ
甲状腺疾患による変化は、体だけでなく心にも影響を及ぼします。ひとりで抱え込まず、医療的なケアと周囲の理解を得ながら、少しずつ心身を整えていくことが大切です。
参考文献
Gabrielson AT, Sartor RA, Hellstrom WJG. The Impact of Thyroid Disease on Sexual Dysfunction in Men and Women. Sex Med Rev. 2019 Jan;7(1):57-70. doi: 10.1016/j.sxmr.2018.05.002. Epub 2018 Jul 26.
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