橋本病は甲状腺に慢性的な炎症の起こる自己免疫疾患です。甲状腺では甲状腺ホルモンという代謝を調整するホルモンを合成しています。橋本病が進行すると甲状腺ホルモン量が減り、便秘や冷え性、体重の増加等、代謝低下に伴う様々な不調が起こります。ここでは便秘解消にスポットをあてます。
甲状腺ホルモンと消化管運動
甲状腺ホルモンは、消化管の運動に影響を与える神経伝達物質や筋肉の活動に関与しています。甲状腺機能低下症では代謝率が低下し、消化器系の動きが鈍くなることがあります。このため腸の蠕動(ぜんどう)運動も遅くなったり、不規則になったりすることが報告されています。
消化不良や便秘による不調のサイン
消化管の運動が低下すると、腸の収縮や緩和が減少し、食物や消化物質の移動が遅くなります。その結果、消化不良や便秘等の症状が生じやすくなることがあります。
その他に以下のような不調を感じる方もいます。
l 食事が飲み込みにくい
l 胸やけ
l 吐き気
l 腹部膨満感
便秘対策を通じて、腸の活動をどのようにサポートすれば良いのかを見ていきましょう。
橋本病・甲状腺機能低下症と便秘解消法
便秘対策を通じて、腸の活動をどのようにサポートすれば良いのかを見ていきましょう。対策には以下4つのポイントがあります。
- 適切な食事量
- 食物繊維を意識的に
- 良質な油脂をとる
- 適度な運動とリラックス
適切な食事量
食事をしっかりととることで、腸が刺激をうけ、お通じにつながります。食事を抜いたり、食事量が少ない、食事代わりに菓子を食べるような食生活では腸への刺激が不十分であり、便量も不足し、便秘が悪化します。1日3回食事をとりましょう。
食物繊維を意識的に
食物繊維の摂取は便の量を増やし、便秘解消に役立ちます。
野菜やキノコ類、少量の海藻類、全粒穀類を食べ、水溶性食物繊維や不溶性食物繊維の摂取量を増やしましょう。
オクラやモロヘイヤ、玉ねぎ、アスパラガス、ブロッコリー等、食物繊維が豊富な野菜を意識的にとる、味噌汁の具材にキノコやワカメを入れる、主食に玄米や雑穀米、全粒粉パン、オートミールを取り入れるなどが具体的な対策例です。
良質な油脂をとる
良質な油脂は腸の蠕動運動を促すのに役立ったり、お通じをスムーズにする効果を得られることがあります。少量を取り入れましょう。
おすすめの油脂
l エクストラバージンオリーブオイル
l オメガ3(青魚やクルミに含まれる)
適度な運動とリラックス
適度な運動やリラックスすることは、便秘対策におすすめです。
適度な運動は消化管の運動機能改善に役立ち、リラックスすることは、副交感神経の働きを促し、腸の蠕動運動を活発にします。
チラージンS®(甲状腺ホルモン薬)の服用
チラージンS®は体内で甲状腺ホルモンの役割を担っています。甲状腺ホルモン値を安定的に保つことで、多くの胃腸の不調が解消されていきます。
チラージンS®をはじめとする甲状腺ホルモン薬を処方されている方は、処方量を守り、毎日忘れずに服用するようにしましょう。
なお、注意事項として、チラージンS®は食物繊維の多い野菜や大豆製品、やカルシウムをはじめとするミネラル、コーヒーに含まれるカフェイン等の影響によって吸収が阻害されます。
チラージンS®は水と共に服用し、チラージンS®の吸収に影響を与えるものは、少なくとも30分以上時間を空けてとるようにしましょう。服薬に関する注意事項の詳細は医師や薬剤師にご確認下さい。
まとめ
このように、食生活は橋本病・甲状腺機能低下症の方にとって、便秘対策をはじめ、さまざまな不調改善において重要な役割を担っています。日々の食事で無理なくお通じを整えていきましょう。
「ご自身に合った食事量を知りたい」、「減量をしながら便秘対策をしたい」、「食欲がなくても3食食べた方が良いのか」など、ご自身の食生活に疑問のある方は管理栄養士にご相談下さい。
なかには便秘薬の利用を考えている方もいるでしょう。甲状腺機能低下の状態や個別の体質、他の内服薬の影響などにより、便秘薬の副作用に注意が必要な場合があります。医師や薬剤師に相談し適切なものを選びましょう。
参考文献
Ebert EC. The thyroid and the gut. J Clin Gastroenterol. 2010 Jul;44(6):402-6. doi: 10.1097/MCG.0b013e3181d6bc3e.