橋本病やバセドウ病とグルテンフリーダイエット

橋本病やバセドウ病にグルテンフリーが良いと聞き、実践されていたり、試してみたいと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか？橋本病やバセドウ病にグルテンフリーの効果はあるのか、さまざまな調査の結果を踏まえ、分かりやすく解説します。

グルテンフリーダイエットとは、小麦や大麦、ライ麦等に含まれるグルテンを避ける食事制限のことをいいます。

グルテンは特に小麦製品に多く含まれ、一般的にはパンやパスタを避けた食生活をグルテンフリーと考える傾向にあります。

グルテンフリーダイエットは、本来は「セリアック病」や非セリアック性「グルテン過敏症」方のための食事制限です。

グルテンフリーダイエットにはどのような効果があるのでしょうか。

一般的には、グルテンフリーダイエットを実践することで「痩せる」、「疲れにくくなる」といった効果が得られるとされているようです。

セリアック病の方にとって、グルテンフリーの食事制限は疾患（病気）の悪化を防ぐ上で重要な役割を担っています。

なぜなら、セリアック病の方はグルテンを摂取することで自己抗体ができ、小腸に炎症を引き起こしてしまうためです。グルテンをとらなければ、このような悪影響を防ぐことができます。

非セリアック性グルテン過敏症では、自己抗体はできないものの、グルテンをとることで腸に不快な症状を引き起こすとされています。（もっとも、非セリアック性グルテン過敏症は存在そのものについて意見が分かれています。）

ところで、セリアック病は橋本病やバセドウ病と同じ自己免疫疾患に分類されます。ここが橋本病やバセドウ病の方にグルテンフリーの効果があると考えられているポイントです。

なぜセリアック病の食事制限であるグルテンフリーダイエットが橋本病やバセドウ病の方の関心を寄せているのでしょうか？

その大きな理由は橋本病とセリアック病の関係にあります。

セリアック病の方の中に、橋本病（経過観察の潜在性・不顕性の方も含む）を併発している方がいるためです。

セリアック病の自己抗体は橋本病と交差反応を示し、橋本病の自己抗体を増やしたり、橋本病の進行を促す恐れがあります。そのために、セリアック病で橋本病を併発している方はグルテンフリーを実践することで、橋本病の悪化を防ぐと考えられています。

だんだんと結論が見えてきた方もいるのではないでしょうか。

橋本病でグルテンフリーが必要な方はセリアック病を併発している方というわけです。注意が必要なポイントとして、すべての橋本病の方がセリアック病を併発しているわけではありません。橋本病の方の中で、セリアック病を併発している方はごく一部です。

そのようなわけで、すべての橋本病の方にグルテンフリーが必要であるわけではありません。

非セリアック性グルテン過敏症の方もグルテンフリーが有効であるとされていますが、この症状を持った橋本病の方についても、すべての方にグルテンフリーが必要なわけではありません。

実際に橋本病の方を対象とし、グルテンフリーの効果があるかどうかについて、多くの調査が行われてきました。

しかしながら、これまでに橋本病にグルテンフリーの効果があるという具体的な結論を示した論文は見あたりません。

橋本病と橋本病でない人を比較した最近の食事調査では、「橋本病の人々の方がグルテンを含む食品をもともと食べていななかった」という結果が見られます。

どういうことかというと、「グルテンを含む食品を食べていないにも関わらず橋本病を発症している人が大勢いる」ということです。

論文内でも「グルテンを多く摂取することが橋本病の原因とはならないのではないか」とはっきり指摘しています。

バセドウ病の方にグルテンリーの効果があるかどうかについて調べた例はほとんどみられません。そのために、効果があるかどうかはわかりません。これらの関連性についてそれほど重視されていないととらえることができます。

大切なことをお伝えします。

橋本病やバセドウ病の発症の仕組みは複雑であるため、グルテンの影響だけにとらわれてはいけません。

甲状腺疾患は、もっとさまざまな原因や栄養素の影響を受けています。ですからグルテンフリーについて考えるよりも（あるいは考えるだけでなく）、食事全体の栄養バランスについて考慮する方がはるかに重要な場合が多々あります。

実際に、グルテンフリーを意識するあまり、食事全体の栄養バランスが崩れている例を指摘する報告の方が近年では増えてきています。

もしグルテンフリーの食事制限を実践する場合は、具体的な手法に沿って行う方が効果を確かめやすいです。

そして、本当にグルテンの悪影響がある場合は、さまざまな栄養素の欠乏症や消化器癌のリスクが高まりますので、その点についても十分な注意が必要です。

グルテンフリーに関連する調査について、今後の動向を注意深く見守りつつ、まずはご自身でできる対策として、食事全体の栄養バランスについて見直してみることも大切です。

Malandrini S, Trimboli P, Guzzaloni G, Virili C, Lucchini B. What about TSH and Anti-Thyroid Antibodies in Patients with Autoimmune Thyroiditis and Celiac Disease Using a Gluten-Free Diet? A Systematic Review. Nutrients. 2022 Apr 18;14(8):1681. doi: 10.3390/nu14081681.